1.30.2010

かさぶたを作って傷をなおすアブラムシ

アブラムシの一種、モンゼンイスアブラムシは、日本に生息する小さな昆虫です。このアブラムシは、イスノキという常緑樹に虫こぶ(口で汁を吸った事が刺激になり、植物がふくれてできたもの)を作り、この中から、木の樹液を吸って生活しています(写真1)。虫こぶは、攻撃力のあまりないアブラムシにとって、蛾やハチ等の天敵から身を守る家であり、なおかつ食料を供給してくれる大切な存在です。しかし、天敵は時にこの家に穴をあけて侵入し、アブラムシを攻撃します。そんな時、アブラムシは自分を犠牲にして、体の半分以上もの量の体液を出し、それを家の傷口に塗ります。アブラムシの体液は、虫こぶの傷口を塞ぐ「かさぶた」となり、敵の侵入を防ぎます。また、植物の傷は「かさぶた」のおかげですぐに治ってしまうのです。


私達の体は傷口にかさぶたを作って保護するように、かさぶたの形成は人間や他の昆虫にも見られる現象です。しかし、モンゼンイスアブラムシは、自分の体ではなく、イスノキという別の種の傷を治し、更に細胞の形成まで促します。モンゼンイスアブラムシの特殊な体液凝固を利用して、植物の傷を癒すことができるかもしれません。


モンゼンイスアブラムシの体液凝固によるかさぶた形成について研究されました。その結果、お尻から分泌されるアブラムシの体液によって保護された穴の周辺から植物組織が著しく成長し始め、植物が比較的早く元に戻る事が確認されました。アブラムシの作るかさぶたは、虫こぶ壁の再生を促す「成長ホルモン」の役割をしている事が分かりました。


アブラムシによる植物組織の修復を解明することで、植物の発生工学や再生制御における新規技術の開発につながるかもしれません。アブラムシの体液が迅速に植物の傷を塞ぐ分子構造が解明すれば、植物組織の成長や育成の制御技術の開発に役立つでしょう。

アブラムシが傷口をふさぐ動画が見られます。
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20090225/pr20090225.html
http://www.hirahaku.jp/web_yomimono/tantei/goltitle.html
薄葉重/著『虫こぶ入門--虫と植物の奇妙な関係(自然史双書)』八坂書房,1995