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南米アマゾン川流域原産のオオオニバス(学名:Victoria amazonica)は世界最大の葉を持つスイレン科の植物で、観賞用に日本の温室でも栽培されています。オオオニバスの葉の直径は2mを越すものもあり、子どもが乗っても沈まないほどプカプカ浮くので、夏には各地の植物園でオオオニバス試乗会が開催されます。この大きな葉の浮力の秘密はどこにあるのでしょうか?それはオオオニバスの葉の裏を観察するとわかります。葉の裏にはまるでクモの巣のような太い葉脈があり(図1)、この葉脈が巨大なオオオニバスの葉を支えているのです。また、水の中にあって見づらいのですが、オオオニバスの葉柄は実は9mもあります。この葉柄の中のパイプが空中の酸素を根まで送っているのです。 ハスの下の茎の部分、レンコンには穴がありますが、実は葉柄にも穴が開いているのはご存知ですか?空気はこの穴を通って根に供給されているのです。中国から伝わった象鼻杯とはまさにこの葉柄の特色を生かした飲酒法です。ハスの葉の真ん中に穴を開け、飲み物を葉柄の穴を通して流し、吸うように飲むのです。みなさんも機会があればジュースで試してみてください。
1851年、ロンドンで世界初の万国博覧会が開催されました。会場となったのはジョゼフ・パクストンによって設計されたクリスタルパレスです。パクストンはアマゾン原産のオオオニバスの栽培を始めて成功させた優秀なガーデナーでしたが、建築家としても才能がありました。オオオニバスの巨大な葉を支える葉脈の構造と葉柄からヒントを得て、幅約563m、奥行き約138mの大温室のような建物を設計しました。パクストンはまず、植物が光合成できるよう、太陽の光がいっぱい入る総ガラス張りの大温室を考案します。写真1でみられるように、クモの巣のような放射状になった葉脈が交差葉脈によって支えられ、オオオニバスの浮力の強さを生み出しています。重いガラスを支える鉄筋の支柱を設計する際に、この無駄のない自然の理法パクストンは適用しました。そして屋根を支える横梁に、溝状にくりぬいた軽い木材を取り入れ、それを支えるのには、オオオニバスの葉柄のような管状の軽い鉄柱を用いることを思いつきました。そうすれば、横梁と鉄柱がともに雨どいとしての役割を果たすことができるようになったのです。石やレンガ造りの建物が当たり前だった時代に、鉄筋とガラスによって作られた温室はとても画期的でプレハブ建築物の先駆とも言われました。そして、植物の理法から生まれた優美な形の温室はたくさんの心を虜にしました。
日本ではオオオニバスの葉の葉脈・葉柄構造が持つ浮力の発生機構を明らかにするために科学的な角度から更なる研究が行われています。
高い強度で軽量なパネルの建築物構造に応用することが期待されます。例えば、車のガラスの補強にオオオニバスの浮力の原理を応用すれば、クリスタルパレスのようにお洒落で頑丈な車のデザインになるでしょう。
The Private Life of Plants by David Attenborough BBC Books
松村昌家 『水晶宮物語―ロンドン万国博覧会1851』 筑摩書房、2000年。
http://www.kashiwashobo.co.jp/new_web/column/rensai/r06-01.html
パラグアイオニバスの葉の葉脈構造と機械的性質、小林秀敏
http://dou.sakura.ne.jp/ban/hasu2008/index.html 象鼻杯 大阪万国公園
中国の酒書 中村喬 平凡社
画像
写真1:オオオニバスの葉の裏
写真2:パクストンの娘アンとオオオニバス
写真3:飲む姿が象に似ているので象鼻杯。「荷芯の苦」と呼ばれる茎のエキスが染み出し、薬用効果もあります。
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